命に関わる、介護事故。起こらないためにどうする?もし起こってしまったら家族は?

近年、全国の介護施設で発生するニュースをよく耳にすることと思います。もちろん、安全への取り組みはどのような仕事であっても永遠の課題ですが、特に介護の世界は一つのミスが人の命に直結する、極めて緊張感の高い現場

今回は介護施設で発生した事故を振り返るとともに、事故の原因、再発防止への取り組みなどを取り上げます。

介護施設で起こる、さまざまな事故

介護施設で発生が見られる事故には、以下のようなものがあります。

転倒・転落

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歩行中に転ぶ、ベッドから落ちてしまうという事故は施設で頻発しています。施設の部屋、廊下には必ず手すりが取り付けられていますが、それでも転倒事故は発生します。高齢者は骨がもろくなっていることもあり、転倒による骨折のリスクは非常に高いです。

また、一度骨折すれば、完治するまでに車いすや寝たきりでいる状態が長くなり、その後、歩行困難に陥るケースも出てきます。少しでも転倒のリスクがある場合は、車いすや歩行器を使用するのが賢明です。

ベッドからの転落については、寝たきりの人などが、無理に体の位置を変えようとしてそのまま転落するケースが多いようです。最近のベッドは取り外しができる柵が付いているため、夜間の就寝時などには柵を設置しておく必要があります。

入浴時の事故

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入浴には、実にさまざまな危険が潜んでいます。まずは、急激な温度差による血圧の変動がもたらす「ヒートショックは、心筋梗塞や脳梗塞のリスクがあると言われています。特に冬場は脱衣所の気温が低く、浴槽との温度差が生まれやすくなっています。ただし、最近では温度差が生じないように浴室内と脱衣室にヒーターを設置している施設が多くあります。

浴室内での転倒の危険もあります。タイルが濡れてすべりやすくなっている上、裸の状態で転ぶと外傷も深刻なものになりがちです。施設では転倒防止マットを敷いて対応しています。

お湯の温度にも気を配る必要があります。今年8月、和歌山市の有料老人ホームで、入浴介助を受けていた97歳の女性が下半身全体にやけどを負い、死亡する事故が起きました。警察の調べによると、機械の故障で浴槽の温度が普段より高め(48度)に設定されていたにもかかわらず、介助にあたっていた職員は、お湯の温度を素手で確認することなく女性をリフト式の装置で浴槽に入れてしまいました。事前に機械が故障していないか確認を行っていれば防げた事故だったと言えるでしょう。

誤嚥・誤飲

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高齢者は嚥下(えんげ)能力(物を飲み込む力)が衰えているため、飲食物をのどに詰まらせ窒息したり、気管や肺に入り込み肺炎(誤嚥性肺炎)を引き起こしたりする危険性があります。

施設では通常、嚥下能力が著しく落ちている入所者に対しては、きざみ食(食物をより細かく刻んだもの)やとろみ食(片栗粉などでとろみをつけて飲み込みやすくしたもの)を用意し対応しています。職員も、可能なかぎり付き添い、誤嚥防止の努力を怠りません。

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食中毒・感染症

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食材の加熱が不十分な場合、または食材自体の消費期限が過ぎていた場合などに食中毒を引き起こす恐れもあります。高齢者は免疫力が落ちているため、集団食中毒になると多くの入所者が回復に時間を要し、最悪の場合は死に至ります

インフルエンザなどが流行する冬場は、感染症への注意が必要です。ほとんどの施設では、抗インフルエンザのワクチンを事前に注射するなどの対策を取っています。また施設への入退館時の手洗い、消毒といった基本的な予防策も重要です。もちろん職員だけではなく、来訪する家族も注意しなくてはいけません。

その他人為的なミス

人為的なミスは実に多岐にわたります。

・体位変換の際に入所者の体を強くひねってしまった
・体を支えようと強くつかんだら脱臼・骨折してしまった
・車いすに乗せて進もうとしたとき、指がスポークの間に挟まり骨折した
・薬の量を間違えて投与した。また別の利用者に投与してしまった
 など

入所者同士のトラブルが事故に発展する場合もあり、例えばほかの入所者を押して転倒させたケースや、ハサミでほかの入所者を刺してケガをさせてしまったケースなどがあります。この場合、凶器となりうるものがどうやって施設内に持ち込まれたのか、安全体制を見直す必要があると言えるでしょう。

事故の防止に向けた、施設の取り組み

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2006年の介護保険制度改正時に、「指定介護老人福祉施設の人員、設備および運営に関する基準」というものが策定されました。これは介護事故予防を強化する目的で策定されたものです。事故防止に向けた各施設による指針づくりに始まり、事故報告の義務、事故防止に向けた委員会の設立、職員に対する研修といった要項が盛り込まれました。

また、このような法整備と両輪で、現場ではあらゆる事故防止策が議論されています。24時間体制で介護にあたる現場が多いことから、職員間の連絡・引き継ぎを徹底することは事故を未然に防ぐために必要不可欠です。また現場を取りまとめるユニットリーダー、さらには施設長のリーダーシップも、事故防止はもちろん、現場の緊張感を維持していくには重要です。

重大な事故が起きてしまった場合の家族の対応

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このように、事故の防止に向けて施設では様々な取り組みや議論が行われています。しかしもし仮に大切な家族を事故で失った場合、家族はどのような措置を取ることができるのでしょうか?

まずは弁護士に相談すること。介護事故の分野に精通しているエキスパートもいるので、そういった方面に依頼しましょう。また訴訟を起こす場合は、過去の裁判事例を事前に頭に入れておくことも有効です。

例えば2014年1月に発生した事故では、アルツハイマー型認知症の女性がデイサービスセンターを抜け出してそのまま死亡し、2016年9月、福岡地方裁判所は施設に対し約2870万円の支払いを命じています。地方裁判所の見解は、女性に徘徊癖があったことを知っていたにもかかわらず見守りを怠った施設側の義務違反としています。

このように、実際に訴訟が通り、一定の損害賠償金が支払われるケースもあります。しかし、体が不自由かつ認知症のある高齢者が暮らす現場において、完全に無事故を求めるのは厳しいという側面もあることを忘れてはいけません。例えば、転落による事故の場合、身体拘束をしていればほぼ確実に防げるはずですが、法律によって(および道徳的観念から)身体拘束に踏み切れず、転落を防げなかったケースもあります。職員は常に大きなジレンマを抱えながら、日々働いているのです。

安心して家族が入所できる施設を探そう

大切な家族を施設に入れる際、少しでも安心できるところへ入所させたいと思うことでしょう。施設見学の機会に、その施設の安全への取り組みや社員教育の方針について質問してみるのもいいかもしれません。

また施設の雰囲気や、職員の対応、ほかの入所者の表情などからも、その施設の良し悪しが感じ取れるかもしれません。本当に安心して入所できる施設なのか、よく考えて施設選びを行いたいものです。

■参考資料・文献
特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン(三菱総研)