過去の新聞記事から読み解く「介護殺人」の実態

2016年7月3日、NHKスペシャル「“介護殺人”当事者たちの告白」が放映されましたが、介護に携わっている方ならばご覧になった方も多いのではないでしょうか。介護殺人の「加害者」の重い独白は、大介護時代とも言われる現代の暗部を浮き彫りにしました。

今回、介護サポーターズ編集部は、この「介護殺人」という重いテーマに焦点を当て、新聞のデータベースを参考に過去20年間の介護殺人事件を調べました。一体、介護殺人は何が原因で起こるのか。どのように変遷したのか。介護殺人を避けるにはどうしたらよいのか。

介護殺人の実態について紹介します。

介護の現状の問題

業界歴11年の職員が語る、在宅介護の現状と介護業界の未来でも話に出ましたが、まずは日本の介護が持つ現状での課題について整理します。

第一に、高齢者が高齢者の介護をする、老老介護問題。平成22年度の厚生労働省の調査によると、介護者と要介護者が60歳以上同士の割合は、全体の62.5パーセント。さらに、介護者と要介護者が75歳以上同士の割合は全体の25.5パーセント。いまや老老介護は“当たり前”に起こるものとなっています。

第二に、介護者の重い負担です。介護サービス–とくに有料老人ホームの金額的負担が大きく、比較的安価で入れる特養(特別養護老人ホーム)の空きもない状態で、介護をする方への逆風は強いものがあります。

そこで選択肢がないため、国の方針にしたがって在宅介護を続けるものの、介護者がひとりで抱え込んでしまい、地域や親族から孤立してしまうことも少なくありません。とくに家族が若くして介護が必要になった場合は40年、50年以上もひとりで介護を続けるというケースもあるのです。

介護殺人につながる動機とは

軍手と縄

上で述べたような問題、とくに老老介護や介護者の社会的孤立が生み出すのは、介護殺人につながる動機です。

老老介護で、自分の健康も衰えていく一方……。自分がもし病気をして介護を続けられなくなったら、両親はどうなってしまうのだろう、という将来への不安

また、20年以上にもわたり、親族にも地域にも頼れず、ひとりで在宅介護を引き受けてきたことへのストレス

家族や社会に迷惑をかけたくないという考えとこれらの想いが積み重なると、心神耗弱(善悪を判断して行動する力が衰えた状態)やうつを引き起こします。そうなると正常な判断ができなくなり、介護殺人につながってしまうのです。

実例から見る、介護殺人の2つのパターン

介護殺人の傾向としては、以下の2パターンが考えられます。

ストレスが爆発して、衝動的に

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ひとつは、要介護者に厳しい言葉や心もとない言葉を投げかけられたことによって、長年介護で溜めたストレスが爆発して衝動的に殺人を犯してしまうケース。

1997年5月、千葉県山田町で起こったのもそのケースです。無職女性のA被告(36)は同居していた義母のBさん(89)からののしられ、長年ひとりで介護をすることで溜まってきたストレスと日頃からBさんに言われ続けた悪口への恨みが爆発。ビニールひもでBさんを殺害しました。

A被告は夫と子供、義母のBさんとの4人暮らしで、自宅にあまりいない夫の代わりに介護をひとりで十数年続けてきたとのことです。とくに事件が起こる2ヶ月前からはパート勤務をやめて介護に専念することになっていました。

判決は懲役4年。ひとりで請け負った介護へのストレスが考慮された判決となりました。

このように、介護疲れは知らないうちに精神を蝕み、本来ならば助け合うはずの家族のつながりまで見失わせてしまうのです。

将来に絶望し、共に死を選ぶ

また、衝動的な殺人とは別のパターンで多いのが、先の見えない未来に絶望して、心中を図るケースです。

相手に殺していいか尋ねてから殺害する「承諾殺人」と、殺してくれと懇願されて殺害する「嘱託殺人」は、介護殺人を語る上で避けられないキーワードとなっています。

このケースで有名なのは、2006年に起こり、世間に大きな波紋を呼んだ「京都・伏見介護殺人」です。

2006年の冬、京都市伏見区の河川敷で認知症の母親(86)を殺害した容疑で逮捕されたCさん(54)の公判は、多くの人の涙を誘いました。

1995年から認知症の母と二人暮らしを始めたCさんは10年以上働きながら介護を続けました。しかし、2005年から母が徘徊し始めたことを受けて、9月に会社を退職。12月には失業保険が切られ、生活保護も認められませんでした。2006年1月31日、家賃が払えずアパートを引き払った二人は死を決意。

「もう生きられへんねんで」「そうか、あかんか。お前と一緒やで」という会話の後、心中を図ったのでした。命を取り留めたCさんへの判決は懲役2年6ヶ月執行猶予3年。判決の後、裁判長は「母の分も幸せに生きて欲しい」と発言しています。

このような承諾殺人・嘱託殺人の事例は、介護者への支援の不足を何よりも強く物語っています

制度は何一つ変化をもたらしていない

このように、10年前、20年前から介護者への支援が叫ばれていますが、では2016年現在までで、どのように変わってきたのでしょうか。

介護に関する大きな変化といえば、2000年の介護保険制度導入です。この制度により、在宅介護サービスの供給が増加し、在宅介護をする方の負担が軽減されると言われていました。

しかしながら、1998年の1年間での介護疲れによる殺人や無理心中の件数は20件(朝日新聞データベース調べ)だったのに対し、2008年の1〜11月に起こった介護殺人は21件で、2014年は42件(ともに警察庁調べ)。社会環境の変化を考慮しても、介護殺人の数は減らず、むしろ増えていっていると言えます。

将来に絶望する前に、助けを求めることが重要

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このデータからわかるのは、介護の問題は行政だけに頼って解決できる問題ではないということです。介護をしている方が、ただ現状に耐えることを選んでしまえば、いつしか精神を病み、将来に絶望した末に死による介護からの解放を選んでしまいます。それは、直近6年間だけで150件近い介護殺人が起こっていることからも明らかです。

重要なのは、介護をしている方が絶対に「ひとり」にならず、地域や他の家族に助けを求めること。あなたが将来に絶望する前に、そこに助けの手はあるはずです。

例えば、住んでいる自治体の福祉課に相談すれば「介護奨励金」や「介護支援金」が支給されるケースもありますし、市役所や地域包括支援センター、社会福祉協議会で介護相談を受け付けています。

また、「認知症カフェ」「認知症の人と家族の会」……家族のストレス軽減に向けた取り組みで述べたように、認知症の方を支える取り組みは日本全国で広がりを見せています。

今回紹介したような悲劇が2度と繰り返されない社会の実現を目指しましょう。