「もの盗られ妄想」だけじゃない。認知症高齢者に見られる妄想とその対処法

認知症患者に現れる周辺症状の代表格である「もの盗られ妄想」

記憶力の低下にともない、自分の身の回りの物を置いたりしまったりした場所が思い出せなくなり、周囲の人間が自分のものを盗ったと思いこむ現象です。

「おまえが○○を隠したのだろう!」と、介護している家族から思いもよらないひとことを投げかけられてショックを受けた家族も多いことでしょう。

しかし、認知症の高齢者に起こる妄想は、決してもの盗られ妄想だけではありません。今回は、認知症の進行と同時に見られるさまざまな妄想や幻覚を取り上げて説明していきます。

認知症患者に見られる、代表的な妄想の種類

「自分は家族にとって邪魔な存在……」“見捨てられ妄想”

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日常の介護によって、“家族に迷惑をかけている”と負い目を感じている高齢者は多くいます。自分ひとりでできることがどんどん少なくなるとともに、その負い目はどんどん強くなっていきます。

そして、認知症が進行すると、「自分は家族にとって邪魔な存在なんだ」という思い込みが生じ、少しでも家を留守にしたり、家族だけで外出したりすれば「自分はもう必要とされていない」と深い孤独を感じるようになります。

こうした「見捨てられ妄想」を患ってしまうと、家族への信用を失い、部屋に引きこもりがちになってしまいます。

部屋に引きこもると、ADL(日常生活動作)が低下。また、人と話す時間がなくなることで、認知症の進行に拍車がかかる恐れもあります。

「夫がヘルパーと浮気してる……」 “嫉妬妄想”

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“嫉妬妄想”は、夫や妻に対して「浮気をしているのではないか」と誤解する妄想です。

激しい思い込みをしてしまい、たとえば、夫と介護をしている女性ヘルパーが浮気しているのではないかと考える高齢者の方もいます。

見捨てられ妄想と同じく、認知症によって自分に価値がないと思い込んでしまうためです。

配偶者と接する時間が少し短くなるだけで、「外で女(男)と会っている」「駆け落ちしたのではないか」と思い込むケースも少なくないようです。

存在しないはずのものが見える“幻視・幻覚”

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「部屋に誰かいる」「誰かが自分のことを監視している」といった幻覚が見られる場合もあります。このような幻覚は、とくにレビー小体型認知症患者に多く見られる現象です。

幻覚の種類として子ども、虫や動物などが現れて見えることが多いです。幻覚が人の場合は「知らない人がいる」と怯え、虫や動物の場合は追い払う仕草をして、家族を困惑させます。

さらにエスカレートしてくると、高ぶる気持ちや恐怖が自分自身では抑えきれなくなり、夜中に突然大声を上げる、物を破壊する、家族に暴力を振るうといった行動に走ることもあります。

妄想の原因とその対応策

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認知症に伴う一連の妄想の原因は、まだはっきりとは解明されていません。しかし、脳細胞に起こる変化(レビー小体の発生)以外では、自身の衰えからくる不安、今までできていたことが徐々にできなくなってくることへの焦りやもどかしさが引き金となり、行き場のない気持ちを周囲へぶつけてしまうのではないかと考えられています。

このような妄想に対して家族が心得ておくべき最も大切なことは「本人の言うことを否定しない」ということです。

妄想をむげに否定すれば、「バカにされた」「無視された」と本人のプライドは大きく傷つきます。家族に対して不信感を持ち、関係が悪化するかもしれません。そのため、否定したい感情を抑えてまずは話をじっくり聞いて、共感の態度を示してみてください

とくにもの盗られ妄想については、「普段お世話をしているのに泥棒扱いされるなんて……」とついつい感情的になってしまうかもしれませんが、そこは冷たい言い方ですが“病気”だと割り切って接すると相手も意固地にならず、その後の関係性も維持できるでしょう。

終わりに

認知症高齢者の妄想による思い込みは一番近しい家族に突然降りかかってくるため、ショックを受けることも多いでしょう。しかし、家族ら周囲の介護者は、粘り強くケアしていかなければなりません。

しかしそれでも、どうしても辛いと感じるときは、友人や親戚などの近しい人たち、あるいは医師やケアマネジャーといった専門家などに相談しましょう。少しでも現状を話すことで気が楽になるはずです。

介護は決してひとりで抱え込んではいけません。周囲の人たちと協力しながら、ときには施設や介護事業者の力も借りつつ、無理のない介護を続けていきましょう。